雛人形を用意するとき、必ずといっていいほど出てくるのが「誰が買うの?」「お下がりは使っていいの?」という疑問。
地域の風習や家庭の考え方が違うため、正解がひとつではなく、かえって迷ってしまう方が多いテーマでもあります。また、「お下がりは縁起が悪い」という話を聞いたことがあっても、理由が曖昧なまま不安になることもありますよね。
本記事では、雛人形をめぐる“購入者の決め方”から“お下がりの本当の扱い方”、そして家族間のトラブルを防ぐ相談のコツまで、わかりやすくて実用的な視点で解説します。あなたの家庭にとってストレスのない、納得できる雛人形選びができるよう、ぜひ参考にしてください。
雛人形は誰が買うもの?昔と今の考え方の違い

伝統的には「母方の祖父母」が用意する理由
雛人形を「母方の祖父母が買うもの」と言われる背景には、日本の家族観と風習が深く関わっています。昔は、結婚後に女性が夫側の家に入る「嫁入り」が一般的でした。そのため、嫁入り先で新しい生活を始める娘へ、実家側が“身の安全と幸せを願って持たせる品”として雛人形を贈ったという歴史があります。雛人形には、子どもの災厄を人形に移し、健やかな成長を願うという意味が込められているため、「娘のための厄除け」として母方が準備したのです。
また、雛人形は高価で立派なものが多く、昔は「嫁入り道具のひとつ」と考えられていた地域もあります。こうした文化が長く続いた結果、“雛人形は母方の祖父母が買う”という考え方が今でも残っているのです。
とはいえ現代では核家族化が進み、家庭事情も多様化しています。「伝統だから絶対こうすべき」という決まりはなくなりつつあり、夫婦と双方の祖父母が相談して決めるほうが自然になっています。
現代は“家族で相談して決める”が主流になっている
最近では、「雛人形は母方の祖父母が買う」という伝統よりも、“誰が買うかは家族で話し合って決める”というスタイルが一般的になっています。核家族が増え、夫婦それぞれの実家が遠方にあるケースも多くなったため、昔のように「嫁入り道具として実家が準備する」という考え方が必ずしも自然ではなくなってきたことが理由です。
また、雛人形はデザインやサイズがさまざまで、住まいの広さやライフスタイルによって選びたいタイプが変わるため、親世代よりも パパとママが主導で選びたい と考える家庭が増えています。
さらに、祖父母のほうも「買ってあげたいけれど、親の希望を尊重したい」と思うことが多く、祖父母が購入費を負担して、選ぶのはパパとママ、という分担スタイルもよくみられる形です。
あるいは、両家で折半したり、祖父母それぞれが少しずつ“節句の品”を贈り合うケースなど、家庭ごとに柔軟な関わり方が広がっています。現代の雛人形事情には“正解がひとつではない”という考え方が浸透しつつあり、家族全員が気持ちよく迎えられる方法を選ぶのが何より大切です。
地域差・家庭事情によって買い方が変わるポイント
雛人形を「誰が買うか」は全国共通ではなく、地域によって習慣が大きく異なります。たとえば、関東では母方の実家が贈るケースが多い一方、関西では「両家で相談して決める」「父方が準備する」など、家庭ごとの方法が一般的です。また、近年は核家族化や住宅事情の変化によって、昔ながらの“地域の慣習”よりも、実際の生活に合わせて柔軟に判断する家庭が増えています。
さらに、家庭の状況によっても選び方は変わります。たとえば「祖父母が遠方に住んでいて現物を選びに行けない」「収納スペースが限られていて夫婦がサイズを決めたい」「祖父母の好みと夫婦の好みが違う」といったケースでは、購入者と選ぶ人を分ける方法(祖父母が費用、両親が選択)もスムーズにいきやすい方法です。
また、最近は雛人形の種類も多様で、コンパクトな親王飾りや壁掛けタイプ、モダンデザインなど、家庭ごとに「ちょうど良い形」が違います。そのため、習慣にこだわりすぎず、家の広さや保管環境、家族の関わり方に合わせて決めることが大切です。地域差を知りながらも、「無理なく続けられるスタイル」を家族で話し合うのが、現代の初節句の賢い考え方といえます。
母親のお下がり(実家の雛人形)は使ってはいけないの?
お下がりがNGと言われる理由と本来の意味
雛人形のお下がりが「縁起が悪い」と言われる理由の多くは、雛人形が“身代わりとなって災いや厄を引き受ける”という古い考え方に由来します。昔は人形に穢れ(けがれ)を移すという風習があり、「一人に対して一つの雛人形を」という考え方が一般化しました。そのため、「誰かの厄を引き継いでしまうのでは?」というイメージから“お下がりは良くない”と言われるようになったのです。
しかし、現代ではこの考え方はあくまで「昔の風習の名残」という位置づけです。現在の雛人形は工芸品として作られており、厄を移すという文化的側面は薄れています。むしろ、「大切に扱われてきた雛人形を受け継ぐのは素敵なこと」と考える家庭も増えています。
家のスペースや経済的事情、また祖父母の思いなどを踏まえ、家庭ごとに柔軟に判断すれば問題ありません。縁起より“気持ちと現実的な暮らしやすさ”を優先して良い時代です。
母のお下がりを使う場合の注意点と確認すべきこと
お下がりの雛人形を使うことはもちろん可能ですが、いくつか注意点を押さえておくと安心です。まず確認したいのは「状態」。長期間しまい込まれた雛人形は、湿気や虫食いの影響で生地が傷んでいたり、部品が外れやすくなっていることがあります。雛人形専門店でのメンテナンスや修理が必要な場合もあるため、早めに点検するのがおすすめです。
次に「スペース」と「飾りやすさ」。昔の雛人形は七段飾りなど大きめのものが多く、マンションやコンパクトな家では置き場所に困ることも。飾る場所を確保できるかどうか、収納場所があるかも事前にチェックしておきましょう。
また、祖父母と夫婦間の感情面も大切なポイントです。お母さんの雛人形を使うことを喜んでくれる場合もあれば、「新しい人形を買ってあげたい」と思う祖父母もいます。お下がりを使う場合は、双方の気持ちを丁寧に確認しておくとトラブルを避けられます。
お下がりを使うときの丁寧な飾り方と扱い方
お下がりの雛人形を使うと決めたら、より丁寧に扱うことで“受け継ぐ”意味が深まります。まず、飾る前に柔らかい筆やブロワーを使って優しくホコリを取り除き、着物のシワや小物の配置を整えましょう。日光が直接当たる場所やエアコンの風が当たる場所は色あせや劣化の原因になるため、避けるのがポイントです。
飾るスペースを清潔に整え、敷物や毛氈(もうせん)を新調することで、古さが気にならず雰囲気がグッと良くなります。また、雛人形をしまう際は防虫剤を入れすぎないこと(変色の原因になる場合あり)、湿気がこもらない収納方法を心がけると長持ちします。
お下がりは「家族の歴史を引き継ぐ」という温かい価値があります。新調したように見えるほどきれいに整えて飾れば、縁起の善し悪しにとらわれず、より特別な初節句になります。
新しく買う?お下がりを使う?判断するための基準
飾る場所・収納スペースから考える
雛人形を新しく用意するか、お下がりを使うかを判断するうえで、まず大切なのが「飾る場所」「収納スペース」の問題です。昔ながらの七段飾りは華やかですが、広いスペースが必要で、収納にも相応の場所が求められます。一方、現代の住宅事情ではマンションや省スペース住宅が多く、置き場所に悩む家庭が増えています。
そのため、新しい雛人形を選ぶ場合は、飾る予定の場所の大きさや、収納のしやすさを事前にチェックするのが大切です。最近は三段飾りや親王飾りなど、コンパクトでインテリアになじむタイプが非常に人気です。
お下がりを使う場合も、同じくサイズの確認が欠かせません。実家では十分に置けていても、現在の自宅には合わないケースも多く、状態の良い雛人形でも「置けないから出せない」という状況は珍しくありません。新調するか受け継ぐかで迷うときは、まず“飾って楽しめるかどうか”を基準に、現実的なスペースから判断するのがおすすめです。
赤ちゃんの家族構成(姉妹の有無)から考える
雛人形を新しく買うか、お下がりを使うかを考えるとき、“姉妹の有無”も判断材料のひとつになります。地域によっては「姉妹それぞれに専用の雛人形を用意する」という習慣がありますが、近年は必ずしもそうでなく、1セットを家族で共有する家庭も増えています。これは、現代の住まいの広さや家族の価値観の変化が影響しています。
もしすでに上の子の雛人形がある場合、「下の子にも雛人形を買うべき?」と悩むことがあります。しかし、実際には“1つの雛人形で姉妹を守る”という考え方も広まりつつあり、無理に人数分そろえる必要はありません。もちろん、上の子の雛人形が大きい場合は、2人目以降に「市松人形」や「つるし飾り」を追加し、それぞれの子に象徴となるものを贈るという方法もあります。
逆に、お下がりを使いたい場合は、姉妹が増える可能性や、それぞれに合った飾り方ができるかも考えるポイントです。家族構成を踏まえ、「子どもたちが長く愛着を持って飾れる形」を選ぶのがおすすめです。
費用・家庭の予算・祖父母の気持ちから考える
雛人形の判断でもう一つ大きなポイントになるのが「予算」と「誰が費用を負担するか」という問題です。雛人形は数万円~数十万円まで価格帯が広く、飾りの種類や素材によって大きく変わります。新しく購入する場合は、まず家庭として無理のない予算を決め、その範囲内で気に入るものを探すのが理想的です。
また、祖父母が「孫のために買いたい」と考えている場合もあります。この気持ちはとてもありがたいものですが、事前にサイズやインテリアとの相性、予算などをすり合わせておくことが大切です。祖父母が善意で選んだものの、家に置けない・飾れないという状況はお互いにとって残念な結果になります。反対に、お下がりを提案されることもありますが、その場合も「状態が良いか」「飾れる場所があるか」「自分たちの気持ちとしてしっくりくるか」を検討する必要があります。
最終的には「誰が買うか」よりも、「家族が気持ちよく飾れるか」が一番のポイントです。予算と気持ちのバランスを見ながら、納得できる選択をすることで長く大切にできる雛人形になります。
祖父母とのトラブルを避けるための上手な相談法
「誰が買う?」より“どんな形で関わってもらうか”を決める
雛人形をめぐるトラブルで多いのは「誰が買うべきか」という点にこだわりすぎてしまうことです。しかし実際には“誰が買うか”ではなく、“祖父母にどんな形で関わってもらうか”を先に決めたほうが、家庭内の空気はずっと穏やかになります。たとえば、「雛人形は夫婦で選びたいから、祖父母にはお祝い金を一部いただく」「祖父母が選びたい気持ちを大切にして、一緒に見に行く」「実物は自宅で購入し、祖父母からはつるし飾りや名前旗を贈ってもらう」など、関わり方はさまざまです。
この考え方にすることで、祖父母の“孫のために何かしたい”という気持ちを尊重しつつ、夫婦としても生活空間や予算に合った雛人形を選びやすくなります。どちらかに負担や不満が偏らないよう、「役割」を先に決めることが、トラブル回避の第一歩です。
お金を出す人・選ぶ人・飾る人を分担する
雛人形をめぐるすれ違いは、「誰が負担するのか」「誰が決めるのか」が曖昧なまま話が進むことで起こりがちです。そのため、“費用を負担する人”“選ぶ人”“飾る人”を分けて考えると、話し合いがスムーズになります。例えば、費用は両家の祖父母で折半し、選ぶのは夫婦、飾るのは家庭で行うというスタイルもあれば、祖父母が買い、夫婦が収納スペースを考えて選び、飾るのは祖父母が遊びに来るタイミングに合わせて手伝ってもらうなど、分担は自由です。
このように役割を分けると、「せっかく買ったのに飾らないの?」という誤解や、「勝手に決められた」という不満を避けられます。また、選ぶ過程に祖父母が参加すると、雛人形に対して一緒に思い出を共有でき、贈り物としての価値も高まります。負担をひとりに寄せず、家族全員が心地よい形を見つけるのがポイントです。
祖父母の気持ちを尊重しつつ家庭の事情も伝えるコツ
祖父母は孫のお祝いに対して強い思い入れを持つことが多く、「雛人形を買ってあげたい」という気持ちは善意そのものです。ただ、その気持ちを尊重しつつも、家庭の事情(スペース、予算、好みなど)を伝える必要があります。そこで効果的なのが、先に感謝を伝えたうえで、具体的な事情を丁寧に説明する方法です。
例えば、「その気持ちが本当にうれしい。大切にしたいので、飾れるサイズにしたい」「自宅が狭いので、コンパクトなものを選びたいと思っている」「収納スペースが限られていて、長く飾るためにこの形が良い」といった伝え方です。否定ではなく“より良い選択のための共有”として話すと、祖父母も受け止めやすくなります。
また、どうしても意見が合わない場合は、つるし飾りや木札など別の節句飾りをお願いするのも一つの方法です。祖父母の気持ちを大切にしながら、家庭として無理のない形を選ぶことが、円満なお祝いにつながります。
まとめ
雛人形にまつわる風習は、地域や家庭の価値観で大きく異なります。「必ずこうしなければならない」という決まりはなく、現代では“家族が心地よい形を選ぶ”ことがもっとも大切です。
お下がりが縁起が悪いという説も、昔の考え方が誤って広がったもの。実際には「状態」「家族の気持ち」「飾るスペース」を基準に判断すれば問題ありません。
また、祖父母からの申し出への対応や購入者の決め方は、早めに話し合って気持ちを共有しておくことでトラブルを防ぐことができます。雛人形は、赤ちゃんの健やかな成長を願う温かい行事。あなたの家庭らしい、無理のない方法で楽しく迎えてください。
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